だんご　　　　　　　　　　　　　　　　　　

淡路島と明石との間は明石海峡。大潮の下げ時、潮はゴウゴウと西から東へ走る。仲間三人とのボート釣り。

海峡大橋の橋脚（きょうきゃく）まわりには潮が渦巻いていた。この空に橋が架かっていて自動車が飛ぶなどのことはこの際どうでもよいことである。問題は、橋脚渦の後方に潮のもやぁ〜があって、そこに具（ぐ・釣り仕掛け）をいかにして下ろすかだ。四十ｾﾝﾁ 近いアジが群れている。グァックンと針に乗る。七十号のオモリが重たい。これに大アジが連（れん・鈴なりの意）に釣れるとなお重たい。エッサエッサ巻き上げる。巻き上げる間に艇は潮に流される。エンジンを噴かせて艇を立て直し、再びもやぁ〜を目指す。海峡独特の三角波。巨大船の航行が頻繁（ひんぱん）だ。風に逆（さか）らい引き波にあおられ、強い潮流のなかを群がる釣り船かいくぐり、具を下ろす。ボートは小さい。そりゃあきついもんだ。　　　　　　　　　　

絶好位置に着いたのに、誰ぁれも具（釣り仕掛け）を下ろさなかった。見ると仲間三人はダンゴになって具のもつれを解いていた。もつれも二組までならなんとかなる。だが三組の具がダンゴでもつれたらもうダメ。ダンゴ・ダンゴ・ダンゴ、ダンゴ三兄弟は絶望だぁ〜。　　　　　　　

新しい竿（さお）と上等のリールだった。太仕掛けの胴つき擬似針が海底の岩にひっかっかり、竿ごとたくられてズボッと海中へ消えた。

アッ！とＡさん。

手ぶらのＡさん。

もういくら手を振り回したとて間に合わぬ。

よかったよかった。消えたのがＡさんでなくてよかった。各自着込んだ救命具のひもを締めなおした。